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太宰治「火の鳥」39
片腕でぐいと抱きあげ、「立ち給え。いずれ、そんなことだろうと思っていた。たいへんな出世だ。さ、案内し給え。どこの男だ。さちよにそんなことさせちゃ、いけないのだ。」
円タクひろった。淀橋に走らせた。
自動車の中で、
「ばかだ。ばかも、ばかも、大ばかだ。君には、お礼を言う。よく知らせて呉れた。」数枝は、不吉な予感に、気が遠くなりそうだった。「僕は、さちよを愛している。愛して、愛して、愛している。誰よりも高く愛している。忘れたことが、なかった。あのひとの苦しさは、僕が一ばん知っている。なにもかも知っている。あのひとは、いいひとだ。あのひとを腐らせては、いけない。ばかだ、ばかだ。ひとのめかけになるなんて。ばかだ。死ね! 僕が殺してやる。」
「火の鳥未完」
〔終〕
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